刀剣乱舞 日本号×審神者

※ 創作男審神者注意
※ 「夢うつつ」「迷い足」「恋試し」と同一本丸・時系列に関係性は無し





刀剣男士は手入れで怪我が治る不思議な身体をもっているためか、病気の類もほとんどしないらしい。しかし、生身の人間である審神者はそうはいかない。薄い紙ひとつででも手を切れば数分で治るようなこともないし、無理をすれば病気になるし悪化すれば倒れる。

…ということを理解していない男士は案外いるようで、審神者が倒れたときは本丸の半数近くがパニックに陥ったらしい。人のすぐそばに寄り添っていた短刀たちや、以前も審神者が体調を崩したときにいた陸奥守をはじめとした本丸の初期メンバーなどは落ち着いていたが、人のくらしから遠いところにいた美術品たちは狼狽えるばかりであったという。



ということを審神者に伝えに来たのは、狼狽えていたうちの一人である日本号だった。
「はは、話には聞いちゃいたが、いざとなると何もできないもんだ。特に、お前さんがひどく咳き込んでたって聞いて大和守と加州が涙目になってたなァ……元気になったらちゃんと顔みせてやれよ」
「お、おう……いや、それは分かったけど。号さん、なんでここにいるの」
「なんでって、見舞いだよ、見舞い。他の奴らも来たがったがな、陸奥守が病人のとこに大勢で押しかけたら余計に具合悪くなるって言うから、この正三位さまが代表して来てやったってわけだ。感謝しろよ?」
いつもと変わらぬ軽口にふふっと笑う。こうやっていつも飄々としてるように見えるこの男が、自分が倒れただけで慌てたというのだから、そのさまを見てみたかったと思う。
そもそも今回の件だって、寝不足と花冷えが重なったための単なる風邪、というのが診察した薬研の見立てだ。実際それくらいしか心当たりがない。何故寝不足だったのかというのは、特に目の前の相手の居る場ではとても口にできないけども。
「えーっと?こっちが燭台切謹製の粥だ。で、薬研から薬と水差し、と。食ってから飲めってよ。食欲あるか?」
「あー…今はちょっと。喉は乾いたな」
布団から起き上がって水差しに手を伸ばそうとする彼を制止して、日本号がそれをとり水を注ぐ。
「病人なんだから大人しくしてろって。粥は冷めても不味くはならねえらしいが、あったかいの食いたかったら、お前が持ってる小さい板――」
「これ?」
「そう、それで呼べってさ」
「ん、分かった。わざわざありがとうな」
「なぁに言ってんだ。あんたは俺たちのまとめ役なんだ。こういうときこそ、こき使うべきだろ。遠慮すんな」
「ははは、そっか」
「だからさっさと寝て元気になれ」
審神者が持ったコップが空になったのを見、さりげなくそれを取り上げて促すように彼の肩を押す。それに逆らわず布団に身を横たえたが、その大きな手は離れないどころか、日本号は体ごと枕元に近寄って来た。
「…号さん?」
「ん?」
「どうかした?」
「いや」
肩にあった手が頭に移動し、髪をかきわけるようにゆっくり撫でる。そこからさらに手のひらが頬に移動し、熱いくらい温度との武器を握り慣れた厚くかさついた感触が触れる。
再び名を呼ぼうとした唇は親指で抑えされ止まった。そしてそのまま親指は唇の形をなぞるように動く。その意図が読めず見上げれば、日本号の顔が近づいてくるのが見えた。
藤色の瞳に射すくめられ動けず声も出せず、ゆっくりと着実に彼の顔が視界一杯に広がり、耐えきれず目を瞑った瞬間。

こつん。
音がした。共に額に軽い衝撃が走る。
「え」
思わず目を開けば、瞑った瞬間と同じ視界が眼前に依然としてあり、ふっと小さい吐息のような笑いが頬に当たった。
「冗談だ」
「えっ…は…?」
「はは、期待したか?」
何事もなかったように顔が離れ、日本号の口許ににやりとした笑みが浮かんでいるのが見える。そこでようやく、彼に何をされかけたか、何を期待してしまっていたのか理解した。途端、顔が一気に熱くなる。
「熱も引いたみてえだし、全快まであと一息ってとこか。……おいおい顔が真っ赤だぜ。ぶり返したか?」
心配するような台詞だが声音の端々が愉快そうで、全部心情を読まれているのがわかる。
とても彼の顔を見れそうになくて布団を頭からかぶれば、日本号は隠しもせず笑った。
「やっぱりあんた面白えな。早く元気な姿見せてくれよ」
布団越しに頭を撫でられ、少しして部屋から日本号の気配が消える。
仮に全快したとしても、次どんな顔をして彼に会えばいいのか思い付くまで布団から出られそうにない。






下戸シリーズ4話目にして初めて双方素面。そのせいかやたら糖度高くて書いてる途中で喉が甘ったるくなりました……