刀剣乱舞 日本号×審神者 ※ 創作男審神者注意 ※ 「夢うつつ」「迷い足」「恋試し」「熱さまし」と同一本丸・時系列に関係性は無し ふと、近侍にしている想い人がいつになく落ち着かない様子であることに気付いた。 常だったらいつも腰に下げている瓶を傾けてゆっくりと呑んでいることが多いのに、今日は手の中で瓶をくるくるともてあそんで飲む気配すらない。 時間を気にしている風ではないが、何かこの後予定でもあるのだろうか。そう思って審神者は声をかけた。 「号さん」 「ん?」 「どうかした?なんか落ち着かないけど」 「……そんな分かりやすいか、俺」 照れたように笑う日本号の様子に、何か雲行きが怪しいなと思う。が、その流れを止められず、続きを視線でそっと促した。 いつもけだるげながらもはっきりと喋る彼が、すこし小声でぼそぼそと喋る。 曰く、「好きな奴ができた」と。 途端、審神者の胸がすうっと凍ったようなひやりとした感覚が落ちる。 そんな彼とは裏腹に、いつものようなにやりとした笑みではなく、ほんのりと頬を染めて笑う日本号はどことなく幸せそうで。 いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、とられたくない、おれのなのに、だれだ、ゆるさない、いやだ、いやだ、いかないで、いやだ、とられたくない、おれのなのに、だれだ、いやだ、いかないで、いかないで ぐるぐると不快感が胸にぐるぐると渦を巻き、吐き気まで催してきた。 真っ黒な不快感が満ちていくにつれ、視界が狭く暗くなっていく。 誰よりも好きなのに今はなによりも聞きたくない声が段々遠ざかって、目の前がすっかり真っ暗になって―― ――目が覚めた。 起きてしばらく、何が起こっているのか判然としなかった。あたりを見回し、部屋と布団と枕を見、ようやく今のが夢だったのだと理解した。 はああああ、と長い息を吐く。 一刻も早く忘れたいのに、壊れたレコードのように、心臓が冷えた瞬間を何度の頭の中で再生してしまう。 これはしばらくひっぱるだろうなあ、と審神者は重い頭を抱えた。 はたして、寝起きの予測はぴったりその通りになった。 嫌なリフレインはずっと続き、そのたびに溜息が出、気持ちが暗く落ち込む。ずきずきと心臓は痛み、集中力を欠くためかタイプミスも計算ミスも何度となくした。その事実にいらいらして、更に集中力を欠いた。 さすがにこれはまずい、と書面から一端遠ざかって目頭を揉むように押さえる。それで何か好転するとも思えないが、少なくとも負のスパイラルは一旦止まるだろう。 ぐりぐりと揉んでから目を開き、ふっと近侍の方を見る。 常だったらいつも腰に下げている瓶を傾けてゆっくりと呑んでいる彼は、盃すら持たず瓶を抱えたままこちらをじっと見つめている。ほとんど動いていないのにその眼差しに心の揺らぎを見つけてしまい、再び夢での彼が視界に重なる。 再びこみあげてくる吐き気を抑えるように俯くと、ざり、と畳の擦れる音がした。わざわざ視界から外したのに、日本号の気配が近い。 「な、なに、号さん……」 「なに、じゃねえよ。あんた、顔が真っ白だぜ……体調悪いなら無理してねえでさっさと休みな。床用意するか?」 「いや、いい」 「良くねえだろ。素人目にわかるぐらい、どう見たって今日のあんたおかしいぜ」 「ちょっと夢見が悪かっただけで……あ、」 やはり今日は調子が悪い。このひと相手にだけは言いたくなかったことがぽろっと口からこぼれでてしまった。 「夢見?人間ってぇのはそれだけで体調崩すもんなのか」 「そういう訳じゃないけどな、今日のはある意味特別だったっていうか」 その説明で納得したのかしてないのか、それ以上日本号が訊いてくることはなかった。 ざり、と再び近づく音がして、身体の側面に体温が触れる。そして肩を抱き寄せられ、瞼の上を大きな手のひらが覆った。 「悪夢なんざ俺がぶっ刺してやるから、ちいっと休め」 低く柔らかい声音が耳朶をくすぐる。いつもなら心地よいその声も、ざらついた心を癒すまでには至らない。 彼が自分を大切にしてくれているのは分かっている。 同時に自分が「日の本一の槍」である彼に見合うだけの価値がないことも分かっている。 そこを恐れずに何か一歩踏み出せれば、胸中を占める不安感も少しはましになるだろうか。 元ネタいただいてる某審神者が夢見悪くてガチで体調不良になっていたので。 ここから好転するか否かは神のみぞ知る。 |